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“面白さ”の基準

 映画を途中から見ても面白くないのと同じように、何事にも、そこに至るまでのプロセス(大げさに言えば歴史)を踏まえて初めて生まれてくる面白さがあると思います。そのことを僕に最も分かりやすい形で教えてくれたのは、かの有名なマイク・タイソンのボクシングでした。
 
 今を遡ること16年前(1990年)の2月11日――。
 当時、向かうところ敵なしの状態にあったマイク・タイソンが、東京ドームでの試合で伏兵ジェームス・ダグラスにまさかの10回KO負け(初黒星)を喫して世界中が騒然となりました。それまでただの一度もダウンの経験がなかったばかりか、滅多なことでは相手のパンチを貰うことのなかったタイソンが、よりにもよって実力的には遥かに格下のダグラスにKOで敗れたのです。当時中学校の3年生だった僕にとっても、それは大きなショックでした。
 
 その日のタイソンはコンディション的には最悪で、ダグラスの(相対的に)軽いパンチを初回から10回までの間に、ほとんど無策のまま一方的に浴び続けました。なす術もなく打ちまくられたタイソンは10回、遂に力尽きて背中からゆっくりとキャンバスに崩れ落ち、生涯初となるテンカウントを聴いたのでした(この一戦にはボクシング史上に名高い“ロングカウント事件”の問題もあるのですが、それはまた別の話)。

 ただ当時の僕は、落胆する一方で奇妙な高揚感を覚えてもいました。
 あのダグラスの非力なパンチが、数を積み重ねることでタイソンをKOにまで追い込んだ――! 
 その事実は単純にドラマチックであり、魅力的に映りました。
 タイソンのような一撃必殺の“倒し屋”とはベクトルの全く異なる“強さ”。
 勝負を急がず、少しずつ相手を打ち負かしていくアウト・ボクシングの脅威を、あの試合を通じて個人的に思い知らされた格好です。もしもあの時、ダグラスにKOされたのがタイソンではなく、別の知らない選手であったなら? 当時の僕はその試合を決して“面白い”とは感じなかったでしょう。

 ありがとう、タイソン!

by atom552808-7 | 2006-09-14 18:24  

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